誰のために何を優先すべきか…

 

オープンから3年、『未就学のお子様を連れてのご来店はお断り』の年齢制限のあるお店にしました。
多分、この10年間の中でオープンしてすぐの『完全禁煙』や『日曜日定休』など色々決断してきた中で一番考えて考えての決断だったような気がします。
階段を上ってきたお客様には「¥1000くらいのランチで馬鹿かこの店は!」と言われながらそれを書いてある黒板を写真に撮られ「”馬鹿なお店だ絶対に行くな”とネットで広げてやる」っと玄関に唾を吐かれ帰られた東京のお客様もいます。
「ミシュランにでも載ったつもりか」などと舌打ちをして帰られれるお客様、予約の電話の際でも同じように淡々と叱られ、ネットでも、めちゃめちゃなことを今でも書かれ続けています…

当時、ゆっくりとお食事を楽しみたいお客様や大切な記念日には二人で過ごしたい、
そんな気持ちでご来店して下さるお客様が少しづつですが増え始めてました。
ちょうどそんな頃、子供がお店を走り回ったりカウンターの階段を上り下りしたり、テーブルの下に入ったり、厨房の中まで入って来たり!そんな光景も増え始めました。

そんなある夜、スタッフがそんな行動を繰り返す子供のご両親(奥の個室を利用されてのお客様)に何度も注意をお願いしても一切聞き入れて頂けずに、最後は結婚40周年の記念にみえたお客様が、その親御さんを怒鳴りつけ帰られてしまいました…
経験不足と配慮の行き届かない私達スタッフの不甲斐のなさのために大切なお客様の大切な記念日を台無しにしてしまいました。
その翌日、その子供のお母さんからお怒りの電話がきました。簡単に内容を言うと「昨日は私の大切な恩人をお招きしての大切な食事会でした。私達夫婦は相手に気を遣いながら食事をしていました、にもかかわらず、いちいちお子様がお子様がと、あの女の店員が言ってくる、こっちは大切なお客様をおもてなししなければいけないのに、どんだけ私があなた達に我慢してたかわかる? あげくにあのお客にまで怒鳴られて、大切な日をあなた達に台無しにされた…」っとのお怒りの電話でした。
…そして僕は「あの怒鳴って帰らしてしまったお客様も入退院を繰り返しながらも久しぶりの外食、しかも結婚40周年目の大切な日でした、あまりにもお客様のお子さんの行動がひどいので、ちょうど空いた奥のお席にわざわざ移動までしてもらったのに、こちらが何度もお客様にお子様をどうかお願いしますとお願いしても一切動こうともせず、子供は相変わらず壁を蹴っているは走り回ってるは、あのお客様のテーブルの下に潜り込むは…
あなた(お客様)のせいで、大切なお客様の大切な日を台無しにされたのはこちらです。まわりの他のお客様も白けて帰られました。ウチは公園ではありません。2度とウチのお店に来ないで下さい」っと言って電話を切りました…
その言い方が良かったどうかは7年経った今でも考えさせられています。その時の状況や雰囲気の説明もブログでは難しいですし、正直記憶も薄れてきてもいますし…

…それから数日ずっと考えました。
40周年の記念に来られたお客様にレジで最後に言われた一言を「あなたは自分の作った料理を誰にどんな風に召し上がってもらいたいのですか…?」

そして『お子様の年齢制限』を決めました。

『完全禁煙』にした時もお客様に同じように言われました。
「あなたは料理の香りとタバコの匂い、どっちの香りで店内を包みたいのですか?」
その一言が迷いを消し去り『完全禁煙』のお店にしました。

今でも相変わらず「子連れ排除の店だ」
「子供嫌いのオーナー」
「経営者は馬鹿だ!」などネットやFacebookの別のお店での投稿やコメントなどでもよく見かけてますが…笑

そんな年齢制限のお店には素敵な話がたくさんあります。
毎年、冬には佐久平駅周辺はイルミネーションがいっぱい飾られます。
そんなイルミネーションを見ながら来店された僕ら世代のお客様が「十何年ぶりに主人と手を繋いでイルミネーションを見ながらここまで歩いて来ました」っと嬉しそうに奥様が話されていました。お二人はディナー中も終始和やかな雰囲気でお食事をされていました。
同じように
「子供を預けてくるから、久しぶりにデートをしている気分でゆっくりと食事やワインを楽しめます」
「外にご飯を食べに行くのにネクタイやジャケットなんて着ない旦那がここに来る時だけはビシっと決めて…笑」
「普段、お酒を飲むのは主人だけどここでは私が飲んで、主人が帰りの運転をしてくれます!」など
この数年、ほとんど毎日ようにこんな話を聞きます。タカシマがうまく引き出せるようになったのもあるかもしれませんが…

それでも相変わらず色々と叩かれていますが、今では毎日そんな会話をお客様から聞けるお店になりました。ご夫婦だけでなく子供を預けて羽を伸ばし、カウンターで女性同士がワインを飲む姿はさすがに男よりもカッコいいものです。
それから…

<コース料理のお店へ>
そして2016年、7年ぶりに大きな決断をしました。もう3年くらい前からずっと悩んでいましたが、きちんと現状を見てからと決め、この10周年を機にアラカルトメニューを無くし、コース料理のみのお店へと変えました。
っとは言ってもオープンから10年間変わらず続く、前菜、パスタ、デザート、パン、コーヒーの付いたカジュアルなコース『パスタコース』はきちんと残しています。
その中で、この数年一番ご注文の多い¥4200のフルコースと、この冬からはじまった¥6300のシェフおまかせコースの3本に絞ってのディナー営業です。

理由はいくつかあります
料理人としても経営者としても能力も技量もない人間としての理由を聞いて下さい。

一つ目は…
出るか出ないかわからない数種類のお肉や魚などを常に在庫として置いておくリスクです。
当然ダメになったらゴミ箱に行くわけではなく、その前に2次加工したりパスタの材料として使いますが、その食材をまた新しく揃えて在庫しておきます。
当然原価率はあがります。その上がった原価をならすためにお客様の価格に上乗せして頂くか、またはお店が泣くか、ただお店が泣き続ければ当然経営は悪化し閉店せざるを得なくなります。

二つ目は…
やはり小さなお店です。できる限りたくさんのお客様に入って頂きたいと思って予約を受けています。
ただ、満席になった際にアラカルトのご注文が入りだすとスムーズに出ていた他のコース料理が止まり、調理場が乱れます。
例えば、満席の中家族3人で二人はコース料理を注文します。お父さんは『豚肉のロースト』だけを注文
「出来次第すぐに持ってきてと…」言われます。「お時間がかかりますので、その間に何か前菜でもいかがですか?」とご案内は致しますが「いい!」っと逆に不機嫌な様子に…
300グラムの豚肉を焼く場合、まず冷蔵庫から出して室温に戻し、それからゆっくりと焼き始めます。そうなると最低1時間は欲しいのです。それをご説明してもなかなか理解されるのは難しく、そのため、お客様を怒らせまいと、そのお肉一つに集中すると、何日も前からご予約頂いていたお客様の料理や20人近い他のお客様の料理がストップしていまします。
誰を優先すべきなのか…?
怒りそうなお父さん…?
先にご予約して下さったお客様…?
先にご来店して下さったお客様…?
コース料理をやりたいのか…?
アラカルトもあるイタリア居酒屋をやりたいのか…?
その毎日のストレスや葛藤、そして技術や能力のない自分の不甲斐なさ、説明下手なサービス…
そんな色々から考えて出した結論です。
もっとやり方はあると思います。簡単に人を増やせばとも言われます。
それでも2015年まで数年間悩んでだした僕の結論です。

コース料理のみのお店にして、もうすぐ3カ月が経ちます。
ご予約のお電話の際に「アラカルトのメニューは無くなりました」と伝えコース料理の説明をします。
5名様以上でしたら、宴会コースになりますので、そちらのコースのご説明も致します。ほとんどのお客様がリピーターで、コースの内容も理解されていますので、以前の様に来てから選ぶではなく、ご予約の際に¥4200のコース、¥6300のコース、パスタのコース、送別会なので団体様の宴会コースなどと決めて下さいます。

そのおかげで、当然仕入れが楽になりました。その日のご予約に合わせた量だけを無駄なく買い入れることができます。明日はすべてのお客様が¥4200のコースとわかりますので以前なら躊躇していた魚や肉を買うこともできます。それでも必要分のみしか買わないため、当然原価率も落ちます。そして一番は以前の¥4200のコースより充実した内容のコースを作り提供することができます。

¥4200や¥6300のコースが多い日は席は全然空いていても、制限をして満席にします。決して満卓ではありませんが、僕が集中してきちんと料理を提供できる席という意味の『満席』にしてお客様をお迎えしています。

おかげ様で最近は、一皿一皿の料理とその料理に合うワインを合わせたペアリングのコースもはじめることもできました。

佐久には沢山のファミレスがあります。チェーン店の居酒屋も沢山あります。個人で経営している個性ある飲食店も沢山あります。
なので、どうかご理解頂きあたたかい目で見て下さいと虫のいいことも言いません…

ただ、『完全禁煙』『年齢制限』『コース料理のみ』といった、また叩かれますが、そんな変わったお店が一軒くらいあってもいいのかと思いました。
たとえ少数でも、その空間を必要とするお客様がいると思っているからです。 シェフ

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