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2015.11.22

ソムリエ…

  
10年前のちょうど今頃は、ヒロッシーニの店舗工事の真っ最中でした。コンクリートはむき出し、天井からは配線がぶら下がるテナントは、ようやく電気工事や配管工事が始まり、壁やカウンターの造作も始まっていました。
初めての独立でしたので、現場の業者さんだけでなく、食材など色々な取引業者さんとの打ち合わせも現場で行う
それ以上に、壁の色をはじめ、カウンターや柱、ドアなど店内すべての色あいや照明、床のタイルの並びに厨房の配置、棚の高さ数センチまで、細部にわたり自分の思い描くお店とかけ離れないように、ほぼ毎日現場に来ていました。多分、色々うるさかったので現場の人たちには、本当に嫌われていたと思います。その感じは今でも変わりありませんが…

たった30坪の小さなお店ですが、レストランの開業には、本当にお金がかかります。多分、平均的な家一軒が建ってしまうくらいのお金が…。
(開業までに貯めた自己資金などでは到底足りず、ほとんどを金融機関からの借り入れで…)

年が明け、現場工事の仕事も段々と少なくなり、ようやく、今のヒロッシーニらしい雰囲気になってきました。
夕方、建設屋さんが帰ると、毎晩一人で厨房に立ち、目を閉じて色んなことをイメージをする。オーダーの流れやフライパンの位置、塩はどこに? お皿は? どんなお皿を使う、などなど
そして今度はカウンターに座り、お客様目線で店内を見渡す、お客様からはどう見える? この壁にはどんな絵を飾ろう、ワインの空ビンをどう演出しよう? こっちのテーブルからは、このテーブルからは…
結露で曇った店内で一人、毎晩のように、そんなシュミレーションをしていました。

『オープン前日に見た夢…』
お皿や備品、食材にワイン、当然スタッフも揃い、いよいよ明日がオープン
スタッフみんなを早めに帰らせ、調理場に一人立ち、目を閉じ、ゆっくりと頭の中で店内を見渡す…
誰もいないはずの店内から、ガヤガヤと音が聞こえ始める、カウンターには、スパークリングワインを楽しそうに二人で飲む女性のお客様、その隣では おまかせの料理を食べながら、料理に合わせたボトルワインを飲む常連夫婦のお客様、奥の個室では会社の飲み会、普段は厳しい上司もワインで酔った女子社員にからかわれ、みんなが大笑い、あそこのテーブルは女子会ワイン、ここのテーブルも、あそこのテーブルも、どのテーブルでもワインが飲まれ、笑い声とはずむ会話、隣のテーブルの会話も、当然BGMなど誰にも聞こえるはずもなく…みんなの声や笑い声、お皿を洗う音やフライパンの音がこのお店の活気という音になる僕らスタッフは、ボトルワインの説明や、できあがった料理を運んだり、空いたお皿を下げたり、ワインのお代わりや注文取りに大忙し…

女子会なんて言葉がなかった10年前、子供を預けて、お酒を飲みに行くママなんてタブーな時代、生ビールや熱燗でなく、仕事帰りにスパークリングワインや赤ワインで楽しむサラリーマンなんて佐久平にはいなかったそんな時代
本当にそこまでリアルな夢だったか、今では定かではありませんが、それでもなんとなく近い夢を、その日描いていました。

そんな先日、10年前に『僕の描いた』そっくりの夢を見ました。女性も男性も、どのテーブルでもワインが飲まれ、止むことのない笑い声、スタッフはワインのオーダーにやられ、僕は周りを見る余裕なんてないくらいオーダーにやられ…

それでも僕の手は止まりました。それは、10年前の僕の夢には全く存在がなかった、楽しそうにお客様とワインの話しをしているソムリエがいたからです。

ご存知の方も多いと思いますが、11月6日、僕の右腕の高島健一がソムリエ試験に合格しました。
僕のお店はかなりブラックです。連休は年に3〜4回くらいしかありません。休みは定休日の日曜日しかない僕のお店で、朝早くから働き、家に着く頃には日付けが変わる、うちで働きだして7年間、僕に毎日怒鳴られても不貞腐れず 腐ることなく出勤し、この2年間は本当に朝まで勉強をしソムリエの資格を取得しました。

この数週間、本当に夢のような毎日です。彼と今日の料理とワインの話をしながら仕事ができること、お客様と楽しそうにワインの話しをしている彼の姿、そして毎日、お祝いに来店して下さる沢山のお客様、花束やお祝いまで持って来てくださるお客様も沢山いらっしゃいます。本当に彼だけでなく、お店としてオーナーとしても嬉しい限りです。

当然、ようやくスタートラインに立っただけということはわかっています。ソムリエ合格という、今だけのお祝いムードなのもわかっています。

車社会の田舎町で、イタリアやフランスのように、レストランで料理とワインと会話を楽しめるそんなお店になるよう、日々ご来店下さるお客様とゆっくりと良い時間と関係を築きながら11年目のお店作りをしていきたいと思います。

高島健一へ

『本当に合格おめでとう。そしてありがとう!これからも変わらず、よき飲み仲間で…』

ちなみに写真の名刺は、タカシマの新しい名刺です。一年前、タカシマがソムリエ試験に落ちた時、新しい名刺は、「タカシマがソムリエになるまでは作らない」と約束をしていました。合格から2日が経ち、ヒロッシーニの名刺だけでなく、ホームページやショップカードなどでもお世話になっている『合同会社 アスプラス』の代表 赤井さんがランチに来店、そこで高島へ「ソムリエ合格おめでとう」と僕がまだ依頼していない、ソムリエの肩書きの入った新しい名刺100枚をお祝いとして、持って来て下さいました。名刺のデザインまでは先に作り込み、合格発表の直後 印刷屋さんに発注し、出来上がったその足で来店して下さいました。

多分、これに関しては本人よりも僕がサプライズすぎて感動した気がします。本当にありがとうございました。

また、重ねて毎日のお客様のお祝いにも感謝しています。これからもどうぞよろしくお願い致します。シェフ