父の背中
毎年この時期になると必ず父がいつもの沢に出かけ、天然のクレソンを採りに行ってくれています。
ヒロッシーニがオープンした年から毎年
他にもフキノトウやわらび、秋には野生のきのこなど野山を歩いて、たくさんのお店で使う山菜を採ってきてくれています。
そして、父が会社員時代に仕事の縁で知り合いになった、今では30年来の友人の野辺山の農家さんが、お店をだした息子さんのためにと1ヘクタール以上の畑を僕のためにと用意してくださり、ブロッコリーやキャベツ、白菜やかぼちゃ、ほうれん草や赤タマネギなどを作ってくれています。野菜の季節がはじまると週に2回くらい軽トラックで野辺山まで出かけ、トラックいっぱいの野菜を取ってきてくれています。
月曜日の朝、今年最初のクレソンがバケツ3杯程届きました!
やはり、寒の季節の水辺のクレソンは最高に美味しいです。
ただ、今年のクレソンは父が採りに行ったのではなく、父の会社員時代の同僚であり、50年来の親友の奥さんでした…
その父の同僚であり親友の方は、生まれつき身体に障害があり、生活にはなかなか苦労はありましたが、ズバ抜けた頭脳を持ち、通常ならそれなりに優れた経理が三人でする仕事を一人でこなしていたそうです。
それでも身体に障害があるため定年までは働けず、会社を退社し寝たきりの生活が15年くらい続き、数年前に亡くなられました。
今回クレソンを採ってきてくれた奥さんにお礼を伝えると、「かっちゃんも (父の呼ばれ名) だいぶ身体に無理がきかなくなり、沢まで降りることができないらしいだよ。それでも毎年息子のお店のために採りに行ってるから、どうしたもんか?」とお茶を飲みに来た時にボソッと言ったらしく、それでおばさんが変わりに採りに行ってくれたようなのです。
そうはいってもおばさんだって70歳を過ぎています。決して達者な年ではありません。
おばさんに何かあっては申し訳なく「クレソンは絶対必要なものでもないし、オレが休みの時にでも採りに行けるから無理しないでください」っと伝えると…
おばさんは「お父さんはうちの人が寝たきりになってからも、何十年間変わらず、毎週話しをしに出かけてきてくれただよ、最後の頃はかっちゃんのことがわからなくなってても友達だからと最後の最後まで遊びに来てくれただよ」
「だからクレソンくらいいいだよ」っと笑って帰られました…
僕のお店用の畑を作って下さっている野辺山の農家さんとも、似たような話を聞いたことがあります。
僕が小さい頃から父にはたくさんの友達がいました。
そしてこの歳になってもその友人の方は変わらず父を慕ってくれています。
僕は今年45歳になります。人との縁を大切にして、今からでもそんな父のような素敵な人生を送りたいと思いました。僕の場合はかなりマイナスからのスタートにはなりますが… シェフ