重い荷物を背負って…


昨日、中学3年になる息子が修学旅行から無事に帰ってきました。我が家にとっての無事とは、小麦や卵などの食物アレルギーを持つ息子が、間違って接種してしまった場合、アナフィキラシーショックで死にいたるケースがある。よく言われるスズメバチに刺されるようなことが日常的にあるからです。
小麦や卵のアレルギーの怖いのはパンやラーメン、うどん、卵焼きなどわかりやすい料理よりも、ベーコンやハム、ソーセージなどの加工品やマヨネーズを使った料理、天ぷらやトンカツ、コロッケなどの揚げものやハンバーグ、カレーなどのつなぎに使われているということです。
あげ出すとキリがないくらい身近な食べ物には小麦、卵は使われています。

ちょうど1カ月前、10周年のイベントや送別会などで毎日が忙しかった3月下旬、スタッフにお願いをして優子さんだけ休みをもらい、子供たちと大阪に4日間だけ帰ってきました。
今回は無理をしても帰らなければいけない理由があったからです
それは息子(シエナ)の修学旅行の食事の下見、詳しく言うと下見というより優子さんとシエナでアレルギーの対応してくださるお店を探すことが目的でした。

夕飯と朝食の出る宿泊ホテルは学校側がアレルギー対応をしているホテルを最初から探してくださり、そこでは担当の方と電話やFAXのやり取りで、みんなと同じようなメニューで代替え食を用意してもらえることになっていたのでまずは安心しました。

問題は3点…
一つ目は、2日目の1日グループ行動のお昼を食べるお店です。
だいたいのグループはお昼頃、行き当たりバッタリで、近くにあるラーメン屋さんやうどん屋さん、ファミレスなどに行くと言っていましたが、シエナの場合小麦、卵アレルギーがあるため行き当たりバッタリの食事は不可能です。
グループのみんながラーメン屋さんに入って、一人コンビニでおにぎりを買って外で食べながら待っていることは可能ですが、さすがに思い出に残る修学旅行です。自分も食べるものがあって、みんなも食べたいものがあって、少しでも京都らしいお店をと、シエナと優子さんでちょうどお昼頃にあたる二条城から晴明神社付近のお店を満腹になりながらも何軒もハシゴをして、2日間かけてなんとか対応して下さる中華料理のお店を見つけることができました。グループのみんなが希望のラーメンや唐揚げ、餃子などもあり京都らしいお粥や蒸し鶏のサラダなど息子も食べられるメニューもありました。
店員の方にお話しをすると快く引き受けて下さり、アレルギーの品目など詳しい話を聞いてもらい「また近くになりましたら予約の電話をきちんといれさせて頂きます」とお願いとお礼を言って一つ目のお店は決まりました。

そして、もう一つは3日目のお昼のバイキングのホテルです。
学校が考えていたホテルは、ここに来て急遽改装工事のためボツになり、時間は迫っていましたが「それならシエナ君の食事を対応してくれるホテルを探しませんか?」という学校側の計らいで、優子さんが京都中の対応して下さりそうなホテルに電話をし、対応してくださりそうなら、そのまま満腹の中ホテルのバイキングに下見がてら行きお話を…
結局、旅行の日程時間とは他の先約の修学旅行のお昼の時間と重なり大阪滞在中には見つかりませんでした…
数日後、旅行会社の方から「対応して下さるホテルが見つかりました」と電話があり、そちらのホテルの方と先週までバイキングの全メニューの成分表をFAXで少しづつ送ってもらい、学校給食のようにチェックをしては返事をし、当日食べられるメニューが決まりました。
桜の季節の忙しい京都のホテルとは思えない対応の良さにただただ感謝するのみでした。

縁とは不思議なものです。じつはそのホテルは僕が20代の頃、数カ月という短い期間でしたが日本料理の研修でお世話になった『京都ロイヤルホテル』でした。

世の中には食物アレルギーだけでなく、生まれつき大きな病気や目や耳、手足などに障がいがある、また事故や病気などにより車椅子の生活など、日常の生活に様々な困難を持つ人がたくさんいます。
だから、みんなと同じように楽しい修学旅行を過ごすためには、事前に色々と無理なお願いをしておく必要があります。
病気や障がいを持って、常に辛い時間や寂しい思いをしていても、こんな時でさえ頭を下げてお願いをしてまわらなければなりません。
決してプライドの問題ではなく、一生懸命お願いをしなければ、みんなと同じように楽しい修学旅行ができないからです。
だから何度でも頭を下げます。
たぶん同じような病気や障がいを持っている方にはわかってもらえると思います。
わずか1000円のお粥定食を食べるためでも、京都まで時間とお金をかけお願いをしに私たちは行きます。
それは当然こちらがお店側に無理を言って気を遣わせてしまうからです。
幼稚園の遠足でも小学校や中学校の給食、キャンプや登山、普通の日曜日の外食、温泉で食べるソフトクリーム一つさえ…
そういう環境で15年やってきました。

そんな修学旅行の1週間前、息子がお世話になる中華料理のお店に自分から予約の電話をしていました。
「三月の終わりに小麦、卵アレルギーのお願いをした長野の中山志瑛名と言います。その節は大変お世話になりました。予定通り27日の11時30分頃4人で伺います。ご迷惑をかけますがよろしくお願いします。あっ!あと大変すいませんが一人が病気で松葉杖です。できれば入り口近くの座敷でなくテーブル席をお願いできませんか?本当に僕だけでなく無理を言ってすいません…当日は遅れないようにいきます。お忙しい時間と思いますがよろしくお願いします。失礼します」っと言って電話をしていました。もちろん僕らは何も助言はしていません。生まれつき病気と付き合っていると、他の人のこともきちんと気遣える人間になります。小学校3年生くらいから必ず彼はお世話になったお店にお礼状も欠かさず書いています。本当に嬉しかったから、そして感謝の気持ちと、またお世話になるかもしれないからなんだそうです。
最近、僕は彼から学ぶことが本当に多いです。それはじつに嬉しいことです。

そんな修学旅行を意識していたこの数ヶ月、同じようなお客様が何組か来店され予約をしていかれました。
一組は魚アレルギーで魚が一切ダメなお客様
魚そのものだけでなく、魚から取った出汁などもダメでした。
今回私が幹事で職場の友人の送別会でどうしても主役が「ヒロッシーニさんがいい」ということでお願いに
「私の料理が厳しければ幹事ですが欠席しても構わないので」っと…

一か月も前からの予約、しかも営業時間をさけてわざわざ来店されてのお願い、そして難しいそうなら私は出れなくても構わない
これを聞いたら、どんな無理をしてもやってあげようと思います。
送別会当日、本当にみんなが楽しそうに宴会をしていました。

もう一組は息子さんが来店して
「どうしてもおばあちゃんの誕生日会をヒロッシーニさんでやりたい、でもばあちゃんは車椅子、お店がご迷惑でなければ、おばあちゃんをおんぶしてあがります。テーブルも車椅子なので他のお客様の邪魔にならない席で構わないですから」っと
このお客様もわざわざいらして事前のご予約だったので、個室をご用意してタカシマも階段を手伝い、素敵な誕生日会になりました。

そんな反面、先日ビーガン…?完全ベジタリアン…?
よくわからない方から忙しい営業中にお電話がありました。
「明日4人でそちらに行こうと思うけど、一人だけベジタリアンなんだ、僕らはホームページに書いてある4200円のコースでいいから、それと同じようなベジタリアンコースをやってくれる?一人だけでいいから」…っと
そして電話を出ていたタカシマが「その方は乳も卵も一切ダメですか?」っと尋ねると「そう野菜だけ、お宅野菜のお店なんでしょ!一人分だけでいいんだからできないの?」

…当然御断りをしました。
断ったには色々と理由はありますが、来店して頭を下げて予約してくれなかったからではありません。
1カ月前でも御断りをします。僕はお金を払えば出てくる自動販売機ではありません。心を持って料理を作っています。

先に書いた、僕はそういう環境でずっと料理を作り、レストランを経営しています。食物アレルギーの人に無理矢理食べさせたりはしません、事前にわかれば出来る限りのことはしたいと思っています。
ただ、横柄な態度のお客や安易に好き嫌いの多い人は正直嫌です。食物アレルギーがなく食べられること、自分の足と意思で自由に食事に来れること、当たり前に思うかもしれませんが、とても幸せなことなのです。それにあなたに嫌われてる食材に罪などありません、その食材の命を僕らは頂いているのです…。

最後になります。
修学旅行の3つ目の問題点
バスの中で食べるお昼のお弁当
どうしてもお弁当屋さんが一つだけ代替えは作れないと旅行会社に電話が入りました。
この修学旅行を担当してくださった添乗員さんはわざわざヒロッシーニまで来て、今日セブンイレブンでシエナ君が食べれそうなおにぎりを買って包みを持ってきてくれました。「すいません、中身は僕がお昼ごはんに食べてしまったんですが、成分表を見てもらえますか? 大丈夫そうなら僕が当日ホテルの近くのコンビニで買って2日間用意しますから」
…全てのおにぎりがシエナが食べれるおにぎりでした。
僕はそのご好意に嬉しすぎて、思わず泣いてしまいました。
今回この添乗員の方には本当にお世話になりました。
そして、この2泊3日の修学旅行で息子が思い出に残る旅行のために、ご足労をおかけした全ての皆様に本当に心から感謝いたします。
良い思い出のためにありがとうございました。 

        中山弘